Smoke & Guns 2-1
2.動き出した歯車
静まり返った部屋の中、携帯電話のコール音だけが響いた。
1コール、2コール、3コール。
4コールが終わらないうちに電話口の向こうから声が聞こえた。
「もしもし。」
女性の声だった。
相手の性別は特段驚くことではない。
黒崎優夜は相手が電話に出たことに極度の緊張を覚えた。
しかし、あくまで冷静に。気持ちを落ち着かせ黒崎は会話を切り出す。
「街の便利屋です。依頼の件でお話を伺いたくお電話させて頂きました。」
「えっ。わ、わかりました。会ってお話した方がよろしいでしょうか?」
相手もまさか依頼を受ける旨の電話だとは思わなかったのだろう。焦っているように聞こえた。
「そうですね。場所の指定はありますか?あまり遠くなければこちらからお伺いしますがどうでしょう?」
この切り口は黒崎が依頼を受ける際のテンプレートである。
会話のリードは自分が。彼の中では最早鉄則となっていた。
「で、では、池袋駅前にあるヒナゲシというカフェで待ち合わせできませんか?」
cafe ヒナゲシ。昔からあるベーシックな老舗のカフェだ。
黒崎も聞いたことがある店で場所もあらかたわかっていた。
「わかりました。日時や時間の指定はありますか?」
「明日の13時でお願いできませんか?」
黒崎はデスクに置かれたメモ帳を左手で開きチェックをしたあとそのページに折り目をつけた。
「わかりました。当日の服装とお名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「服装は白のワイシャツにデニムを履いていきます。名前はさきです。宜しくお願いします。」
了解の返事をし、丁重に電話を切った黒崎は先程折り目をつけたページに詳細を書き込んで閉じたあと再びベランダへ向かった。
お気に入りのラッキーストライクを胸ポケットから出し勢いよく下に振ると1本だけ取り出して口元へ運ぶ。
そしてパンツの右ポケットに手を入れライターを取り出してタバコに火をつけた。
煙草から立ち上った煙にふーっと息を吐くと四方に舞って消えた。
ベランダに前のめりに寄り掛かって煙草を吸う黒崎は2年前の出来事を思い出していた。
彼がまだ企業に勤めていた頃。仕事が終わり自宅の通りを歩く黒崎が眺めた時計の針が指し示すのは21時をちょうど過ぎる頃。
自分の帰りを待つ両親に意味も無くケーキをワンホール買ってサプライズを決め込もうと企てていたあの日。
彼の人生の歯車は止まった。