Smoke & Guns 1-1
1.prologue
「ふーっ。」
右手の人差し指と中指でお気に入りのラッキーストライクを口元から離しだらんと腕を下ろした黒崎優夜は長い一息を吐いた。
バルコニーの手摺に肘を付いた左手にはエメラルドマウンテンの缶コーヒー。
毎日の朝の週刊である。
ふとバルコニーから地上を眺めると慌ただしく走る新聞配達員の青年、犬の散歩をする老夫婦、ランニングをする男性。
これもまたいつもの光景だ。
飲み終わった缶の中に吸殻になったラッキーストライクを押し込むと、ジュッと音を立てて火は消えた。
バルコニーのガラス戸を開けて部屋へ入ると黒崎はパソコンデスクへ向かった。
使い込まれたシステムデスクの上にはサブモニターを含めて3台。
マウスもキーボードも黒一色。
すべて彼の商売道具なのだ。
慣れた手つきでパソコンを操作していくとあるサイトが画面上に表示された。
[街の便利屋]
そう、彼の仕事のサイトだ。
ペットの世話、荷物持ち、留守番など小さなことから浮気調査、身辺調査のような探偵まがいの案件。
依頼人の望むことであれば基本的には全て請け負うまさに街の便利屋が彼の仕事。
朝バルコニーで煙草を吸い部屋に戻って依頼のチェックをする。ここまでが黒崎優夜の毎朝の決まりなのだ。
この仕事を21歳の頃に始め2年、客足は微力ながらも増え続けていた。
今日もいくつかの依頼がメールボックスに届いていた。
来た依頼を受けるも受けないも全て彼の自由、ルーズで気分屋な黒崎にはしょうに合っていた。
ふとマウスのホイールをあるポイントで止める。
「これは・・・。」
黒崎の手を止めた案件の題にはこう書かれていた。
[蓮の刺青を入れた男]
「まさか・・・!」
恐る恐る本文を表示するべくマウスを左クリックする。
[私の家族は蓮の刺青を入れたある男の手によって殺されました。
警察は表立って報道も捜査もせずもう約1年も経ちます。
どうか私の無念を晴らしてはいただけないでしょうか?]
本文の最後には電話番号だけが記載されていた。
黒崎の胸は妙にざわめいた。
この依頼に何かを感じたのだろう。
気付けば部屋のベッドに投げ捨てられた携帯電話を手に取りメールに記載されていた電話番号へ電話を掛けていた。
丁度2年前、黒崎が街の便利屋を始める前の鮮明に残っている頭の記憶。
蓮の花の刺青。
ただそれだけが今の黒崎を突き動かしていた。
2年前で止まっていた運命の歯車が動き出す音が黒崎の中で聞こえた。